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交通事故の裁判
逸失利益

交通事故に遭った被害者、逸失利益の税金の控除について

 

被害者は57歳の健康な男性。東京都港区で開業する内科医師。横断歩道歩行中に車にはねられ死亡。

この医師の前年度の経費控除後の稼働収入は約7,000万円。67歳まで10年間就労可能であって、生活費を35%としてライプニッツ式計算では慰謝料やその他損害を含め約2億5千万円となる。

加害者側の主張

 

被害者の逸失利益の算定については、所得税や地方税などを収入から控除した残額を計算の基礎とするべきであるとし、その根拠を次のように主張しています。

損害賠償法の目的、理念は被害者に生じた実質的な損害の公平な分担にあるから、逸失利益の算定に当たっては、被害者の失った実質的な利益の賠償をもって足りると解するべきであるとし、人の命の値段に極端な差異が生じるのは妥当でないから損害賠償額算定にあったては高額所得者は税金を控除し、低所得者については税金を控除しないことにして賠償額の不平等をできる限り縮小するのが合理的である。

損害賠償は、被害者に事故がなかった場合と同様の財産状態の回復を目的とするものであって、非控除説をとると事故が無かった場合以上に財産を積極的に増加させ被害者側に不当な利得を得させることになる。

 

被害者側の主張

 

所得税法は、対人損害賠償を非課税所得としている控除説をとると、加害者は税金相当額について不当に利得することになる。控除説は、逸失利益の本来の意味を忘れ高額所得者にたいする賠償を不十分ならしめるものであって妥当ではない。

税金控除については学説も対立していますが、最高裁判所は非課税説をとっています。損害賠償について、税金を控除すると、所得税法の規定の趣旨を没却することになり、加害者を不当に利得させる結果となり不当であるとした、原案の判断を正当とし、相当でないと判断しています。

しかしこの判決は積極的なる理由付けを明示していません。

他の地方裁判所では、年収700万円の被害者会社員に対し、所得税と市民税を控除する逸失利益を計算しています。

尚 同様のケースでは、生活費50%控除として非課税説をとっている裁判所もあります。

これは、被害者がその稼働によって取得した収入からいつ、誰に、いくらの税金を納入するかは、専ら立法政策によって決められる被害者と課税権者との関係ととどまり、加害者とは関係ない事柄である。

加害者としては、被害者がその稼働によって取得していた収入の全額を賠償しなければならないものとして、被害者が事故に遭遇しなければ取得していたであろう収入額を回復させるのが、損害賠償法の根本的理念である現状の回復の観点から相当である。

加害者が被害者の収入の全額を賠償したのち、被害者ないしその遺族が取得した損害賠償金に対して、課税がなされるか否かは、これまた立法政策によって決められる被害者らと課税権者との関係にすぎず、加害者の損害賠償額とは別個の事項と言うべきであるから、現行法において損害賠償金の算定にあたって収入額から税額を控除すべきであると言うことはできない。

控除説も非控除説も既述のとおりそれなりの理由付けはされていますので、純理論的にどちらが正しいとは言い切れないと思います。

結局は交通事故の場合、被害者サイドから考えるか、加害者サイドから損害賠償を考えるかになるわけですが、諸々の要素を総合的に考慮し、いずれかが損害賠償法の理念によりよく合致する結論を導くことななるかと言う価値観と結びつく問題であると思います。