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追突は100対0か? 過失割合

過失相殺

 

日本の民法では、ある加害者が交通事故のような不法行為を起こしても、被害者に過失があった時には、その損害賠償額を定めるに際して被害者側の過失を斟酌することができることになっています。これが「過失相殺」と呼ばれることはよくご存じの事でしょう。

この過失相殺と言う考え方は、現在の日本における不法行為に基づく損害賠償を実務の上で処理していくに際しては、決して忘れてはならない考え方です。

何と言っても、この過失相殺の活用によって被害者と加害者間の利害関係の調整、公平で妥当な解決が得られるからです。

そこで、現在の日本では、裁判の上のみならず、日常的に行われている示談の中でも、被害者側の過失は常に考慮されてきているわけです。

この過失相殺は、交通事故においても、あるいは新種保険の対象となる事故にあいても、いつでも問題になるものです。

そうした意味で、過失相殺は損害保険とは切ってもきれないものであると言ってよいでしょう。

しかし、その具体的な適用となると、実はなかなか難しい問題があります。

交通事故に関しては、別冊判例タイムスが発行されて以来、類型化の試みが様々なかたちでなされてきました。そこで、交通事故については、一定の事実関係の調査さえ済めば、後は自動的に過失割合が出てくるように思われるかもしれません。しかし、実際にはそんなに簡単なものでは済まされない場合も少なくないのです。

追突は100対0か?

いわゆる追突は、被追突に対して過失を全くとうことのできない場合の典型とされています。

そこで、追突の形態の事故の場合には、いつでも前方車両の過失割合はゼロであると考えられがちです。しかし、こうした常識にも吟味が必要な場合があるようです。

別冊判例タイムスでも、急ブレーキによって生じた追突については、被追突車の基本過失が30%と類型化されています。しかし、個々の具体的な事例はもっと複雑な要素がからまってきます。急ブレーキを踏んで急停止した自動車に、後続のバイクが追突、転倒しバイクの運転者が障害を負ったという事故がありました。この事故は自動車の60m先を走っていた車が急停止したことに驚いた自動車の運転者が急ブレーキをかけたところ、自動車がやや斜めに後続車の進路を妨げるように停止、そこにバイクが倒れ込むように追突して起きた交通事故でした。

この事故について、民事の損害賠償についてもゼロにはならず、被追突者に過失があるとのことでした。さらに刑事処分については、追突事案であるにもかかわらず、自動車の運転者に対してかなり重い罰金刑が確定しました。

自動車運転者の急ブレーキは合理的な必要性を欠くもので、ゆっくり停止するなど他にとるべき手段があったのにこれをなさずに後続バイクに対して危険を招来したことは、バイクの運転者の傷害の重さとあいまって無視しえない刑事責任があると判断したものです。

民事の問題も、このような刑事判断を無視するわけにはいきませんから、単なる「理由のない急ブレーキ」という類型以上の、相当高い割合の過失が、追突された側の自動車の運転者に認められる可能性は大きいでしょう。

結局、追突だからと言っても、過失割合は常に100対0である言うわけではなく、時と場合によると言うわけです。

考えてみると、これまで追突の場合、後続車の運転者はどんなに大きな事故でも、傷害を負わないのに、一方では、被追突の運転者はどんなに小さな事故でもむち打ち症を受傷し、慰謝料が支払われ、被追突の運転者に対しては、過失相殺なしに100%の損害賠償が支払われるというパターンが多かったのではないかと言う感じがします。

話はそれますが、このような状況の背景には、追突なら過失は100対0と言う常識があり、その結果として、慰謝料に係る賠償性や心因性のむち打ち症の患者の数を増やす要因になっていたと思われないでもありません。

しかしながら、このような常識は、事実関係の追及によって変えていかなければいけないものかもしれないと言う気がします。

事実認定の重要性

先ほど紹介した追突事故による例外的な過失の取り扱いの事例でも、実は当初は、警察、検察共に刑事処分を行うつもりはありませんでした。単なる追突事故として、処理をしようとしていたのです。が、バイクの運転者が執拗に被追突車の運転態様の不当性を警察、検察に訴え続け、結局はきめ細やかな事実認定が行われてゆく中で、被追突車の過失がクローズアップされていったと言う経緯があります。

過失相殺をする上で重要な事実は、なにも急ブレーキに理由があったかどうかだけではありません。優先道路かどうかの問題等は、損害現場を見れば一目瞭然です。しかし、信号の問題、方向指示器の問題、一時停止の問題等々のように、やはり過失相殺の問題には大きく影響を与える事実の中には、往々にして、事実関係がはっきりしない場合も多いようですが、刑事における事実認定も決め手にはならない事があります。と言うのも、刑事の場合「疑わしきは被告人の利益に」と言う原則があり、例えば信号の問題で事故当事者の言い分が対立し、それ以上の証拠がない場合、刑事に関しては責任の追及をそこでやめ、処分を保留することが無いとは言えません。ところが、民事の場合は過失相殺のそれを有利に主張しようとする側に立証の負担がかかるからです。

結局損害賠償の事実を担当する中で、事故態様についての事実認定の重要性を日々思い知らされているのが、いつわざる実感と言うことなのです。