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専業主婦の顔の瘢痕と逸失利益

専業主婦のA子さんはバイク運転中に車と衝突し顔面挫傷の傷害を受けました。

2ケ月の入通院にて治癒となったのですが、額および左眼下部にそれぞれ長さ3~4cm幅5mm、の盛り上がった醜状痕が残り、自賠責後遺障害の12級14号の認定がなされました。

 

逸失利益の賠償請求

そこでAさんは、右の醜状痕の後遺障害により、労働能力を14%喪失したとして、家庭の主婦であるが事故当時29才の健康な大学卒女子であり、今後40年間、大卒女子の平均年収の14%に当たる得べかりし利益(約500万円)の賠償をもとめました。

これにたいして、加害者側は、A子さんは家庭の主婦であるから顔面の醜状痕によって逸失利益が生じるものではないと主張して争いました。

はたして、主婦につき顔面醜状痕による逸失利益は認められるのでしょうか。

 

地裁はそれを認めた。

 

これについて裁判所は、家庭の主婦の家事労働は財産上の利益を生ずるものであり、かつ広い意味の家事労働すなわちハウスキーピングは多様な要素によって成立する高度な作業であって、他人との円滑な接触もその一要素と解されるから、顔面の醜状痕が家事労働に影響を及ぼすことは明らかであると判断しました。

そして、賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計の29才女子労働者の平均賃金を基準とし、10年間労働能力14%喪失として金189万円余の逸失利益を認めました。

慰謝料も12級相当の慰謝料を認定。

 

 

 

 

判例は認めなかった事例の方が多い

 

女子外貌の醜状痕による逸失利益については、これまでもいくつかの裁判例がありますが、労働能力の喪失を認めなかった事例の方が多くみられます。逸失利益を認めない理由として、傷痕それ自体は、一般的に言って知的肉体的活動に対して何の制約を加えるものではなく、女優や歌手、接客業などの特殊のケースを除いては、直ちに労働能力の一部を喪失したとは言えないとしています。

確かに女優・モデル・歌手・水商売などの職業においては,その容姿自体が労働力の一部であり、顔面の醜状痕により仕事に支障をきたすことは明らかであって、そのような場合には逸失利益が認められるべきであることは異論のないところと思われます。またそのような職業に就く蓋然性の高い場合についても同様であると考えます。

 

高校生A君はバイクを運転中に相手車との交差点での出会いがしら事故に遭い、大腿部切断の重症をおい、その結果後遺障害第4級に該当するとして、労働能力喪失率92%の逸失利益と慰謝料を請求したもの。

しかしながら加害者側は、労働能力割合は50%として争ったものです。

 

逸失利益が具体的な資料によって、事故前と事故後の比較ができる場合は比較的容易に逸失利益が算定できますが、本事例のように高校生の場合には、そもそも収入を比較することができず、なかなか容易ではありません。

このような場合に労働能力喪失率が一般的に用いられていることはご承知のとおりです。

しかしこの喪失率は、身体的障害と労働能力喪失の関係を科学的に調査して作られているものではありません。

後遺障害が労働能力に影響を及ぼさない性質のものもあり、例えば外貌の醜状、歯科補綴などその喪失率が実情とあわないものがあることからもわかります。

この喪失率表と言うものは、労働基準法に基づく労働者に対する業務上災害の障害補償についての障害と補償額との関係を流用して作成されたものであり、画一的な行政基準にすぎないものなのです。

従ってどのような場合にも、この喪失率をそのまま適用することは問題です。

 

 

 

 

主婦の場合の考え方

 

しかしさらに進んで家庭の主婦について、はたして傷痕による逸失利益が生じるのでしょうか。

確かに、女子外貌の醜状痕は後遺障害東急12級14号に該当し、労働能力喪失表によれば14%の喪失率になっています。しかしこの喪失率表というものは労働基準法に基づく労働者に対する業務上災害の障害補償についての障害と補償額との関係を流用して作成されたものであり、画一的な行政基準にすぎないもので、この喪失率のとおりの労働能力を喪失したということにはなりません。逸失利益が生じたかどうかは、その後遺障害により収入の損失が生じると認められるかどうかによって決っせられるものでなくてはなりません。

 

慰謝料額で斟酌した方が

 

一般的に言って、外貌の醜状痕があるからと言って、直ちに逸失利益が生じるとは言い難いのではないでしょうか。

本事例の判決は家事労働は他人との円滑な接触も必要であるとの説理により、顔面の醜状痕が家事労働に影響を及ぼすとしていますが、ほとんどの職業、労働についても他人との接触が必要であり、人との接触に必要のない職業の方がむしろ少ないと言えましょう。とすれば、この判決の理論を進めてゆくと、ほとんどの場合に逸失利益が生じることとなります。また、女子に限らず男子の場合にも認められることにならざるを得ません。

私見とすれば後遺障害に基づく逸失利益は、障害により現実の損害が生じる場合、あるいは損害の生じる蓋然性が認められる場合に認められるのであって、家庭の主婦の場合に顔面の醜状痕によって具体的にどのような形で収入に影響するのか疑問であり、経済的利益の損失があると認定することは困難であると考えざるを得ません。本判決の事例の傷痕の程度が必ずしも明らかではありませんが、12級と言うことであれば相手に特に異様・奇怪・不快の念を抱かせる性質のものとも考えられず、人と接触するについて格別の支障を生じるとも思われないし、さらに支障があったとしても、それが為に格別の収入減を来すものと認めることは困難です。

確かに、顔面の傷痕は特に女子においては、はかり知れない苦痛であり、社会生活上のマイナスであることは言うまでもありません。

被害者感情としては、それに対する補償をいくらされても治るものではありません。

しかし、後遺障害による収入減が認められない以上は、逸失利益は生じないというのが相当であり、それにより被害者、加害者の公平を計れるものと考えます。

判例は逸失利益を認めない場合には慰謝料を他の同等級後遺障害の事例により高額なものを認める傾向にあります。